HII領域(えいちつーりょういき、HII region)とは、電離された水素が光を放っている天体である。直径数百光年に達する大きさを持ち、内部で星形成が行われている。このガス雲の中で生まれた若い高温の青い星が多量の紫外線を放出し、星の周囲にある星雲を電離することで光っている。
HII領域は数百万年にわたって数千個の新しい恒星を生み出す。生み出された星団の中で最も質量の大きな星々が超新星爆発を起こしたり激しい恒星風を放出したりすると、HII領域のガスは吹き払われ、星団の背後にわずかな星雲を残すのみとなる。
HII領域は電離された水素原子を大量に含んでいることからその名が付けられている(天文学や分光学では、電気的に中性の原子にはその元素記号にローマ数字の I を、1階電離されている場合には II、2階電離では III…を付けて表記する。そのため、中性の水素原子を HI (H one)、電離された水素原子(陽子)を HII (H two) と呼ぶ。水素の分子は H2 である)。HII領域は宇宙の中で比較的遠距離にあっても観測することができる。系外銀河のHII領域を研究することは、その銀河までの距離を測定したり銀河の化学組成を知る上で重要である。
いくつかの明るいHII領域は肉眼で見ることができる。しかし記録によると、16世紀初めに望遠鏡が発明されるまではその存在は知られていなかったことがうかがえる。ガリレオ・ガリレイがオリオン大星雲の中にある星団(それまではヨハン・バイエルの星表にもオリオン座θ星という1個の星として載せられていた)を最初に観測した時も星雲の存在には気づいていなかった。フランスの観測家ニコラス=クロード・ファブリ・ド・パイレスクが1610年になって初めてオリオン大星雲を発見したとされている。これらの初期の観測以来、多数のHII領域が我々の銀河系や他の銀河の中に発見されている。
1774年にウィリアム・ハーシェルはオリオン大星雲を観測し、「形のない火のような霞で、いずれ太陽となるような混沌とした物質からなる」と記述している。この仮説が確かなものとなるには、約100年後にウィリアム・ハギンスが(妻のマリー・ハギンスとともに)様々な星雲を分光器で観測するのを待たねばならなかった。彼が観測した星雲のうちのいくつか(例えばアンドロメダ星雲)は、恒星と非常に似たスペクトルを持っていた。後にこれらは何千億個もの恒星が集まった銀河であることが明らかになった。これに対し、別のいくつかの星雲は全く違う様相を示していた。銀河のスペクトルは強い連続スペクトルの中に吸収線が含まれるというものだったが、オリオン大星雲やこれに似た他の星雲には数本の輝線しか見られなかった。これらの輝線のうち最も明るいものは 500.7nm の波長にあり、当時知られていたどんな元素のスペクトル線とも一致しなかった。初めのうち、これらのスペクトル線は未知の元素によるものではないかという仮説が出され、この元素にはネビュリウム nebulium という名前が付けられた。同様の考え方によって、1868年に太陽のスペクトルの分析からヘリウムが発見された。
しかし、ヘリウムが太陽スペクトルから発見後すぐに地上でも単離されたのに対して、ネビュリウムは発見されなかった。20世紀初めになるとヘンリー・ノリス・ラッセルが、500.7nmのスペクトル線は新元素によるものではなく、通常とは異なる状態にある既知の元素から放出されたものではないかと提案した。
1920年代に物理学者たちは、極端に密度の低い気体の中では、電子が原子やイオンの中で励起された準安定状態のエネルギー準位に分布できることを明らかにした。より密度が高い環境では、これらのエネルギー準位にある電子はすぐに衝突によって低い準位に落ちてしまう。酸素原子の中でこのようなエネルギー準位から他の準位に電子が移ると、ちょうど500.7nmの輝線を生じるのである。これらのスペクトル線は非常に密度の低い気体の中でのみ見られるため、禁制線と呼ばれる。このような分光観測によって星雲は非常に薄いガスでできていることが明らかになった。
20世紀に行われた観測によって、HII領域にはしばしば高温の明るい星が存在することが分かってきた。これらの星は太陽よりも何倍も重く、寿命が数百万年に過ぎない短命の星である。(太陽程度の質量の星の寿命は数十億年である。)それゆえ、HII領域は新しい星が作られつつある領域に違いないと考えられた。数百万年にわたってHII領域からは星団が生まれ、やがて高温の若い星からの輻射圧によって星雲は吹き払われる。プレアデス星団は星団が自分たちの生まれたHII領域を「蒸発」させた一例である。
HII領域の起源と寿命 [編集]
HII領域の前身は巨大分子雲である。巨大分子雲は主に水素分子からなる非常に低温(10-20K)で密度の高い雲である。巨大分子雲は長期間にわたって安定した状態で存在できるが、超新星の衝撃波や分子雲同士の衝突や磁場の相互作用が引き金となって分子雲の一部が収縮を始める。このような収縮が起こると、雲の衝突や分裂の過程で恒星が誕生する。
巨大分子雲の中で星々が生まれると、それらのうち最も質量が大きいものは周囲のガスを電離させるほど高温になる。このようなガスを電離する輻射場ができるとすぐに、エネルギーの高い光子が電離ガスの境界面を作り出す。この境界面は星を取り巻くガスを超音速で吹き払う。新たに電離されたガスによって電離領域の体積は膨張するが、星からの距離が遠くなるにつれて電離境界面の速度は次第に遅くなる。そしてついには電離面の速度は亜音速にまで遅くなり、星雲の膨張による衝撃波に追い越される。こうしてHII領域が誕生する。
HII領域の寿命は数百万年のオーダーである。高温の若い星からの輻射圧はやがてガスのほとんどを吹き払ってしまう。実際、HII領域の星形成過程は非常に効率が低く、星を形作るのに使われるガスはHII領域全体の10%以下であり、残りは星ができる前に吹き飛ばされてしまう。HII領域からガスが失われる要因としては、内部で生まれた大質量星の超新星爆発も寄与している。これらの重い星は生まれてから100?200万年後には爆発してしまう。
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